ジョブシフトblog - サイト運営の楽しみと苦悩のブログ

転職サイトを運営してる中の人のブログです。苦悩や業界についての考察、独自の働き方への意見を発信しています。

フルタイムでなくても、年収300万円稼がなくてもいい「新しい働き方」

先日、ニャートさんが書かれたこんな記事を見かけました。「年収300万円を稼げない私」と題して、続いているこのブログ記事は、うまく働けない私が、なぜうまく働けないのか、ということを淡々とつづっています。

nyaaat.hatenablog.com

彼女の抱えている辛さは、ブログを読むと痛いほど伝わります。それでは、その辛さはどうすれば解消されるのか。あるいは私たちはどう変わっていけばいいのか。

ここでは、そんなことを考えてみたいと思います。

申し遅れました。私は、普段『京大卒の主夫』というはてなブログを書いています。実際には、ほとんど兼業主夫状態で、いまは時短正社員としてIT系の会社で働いています。今回、なぜかお声がかかったので、寄稿していますが、どちらかといえばあまり働きたくない、働けない側の人間です。いや、だってみんなフルタイムで働くのしんどいじゃん。育児や家事も立派な仕事だし、それ含めたら時短だけど立派なフルタイムだよ、と思って働いていますし、そんなことをブログでも綴っています。

lazyplanet.hateblo.jp

さて、私もいまとなっては時短勤務でそれなりには稼いでいますが、それまでは専業主夫していたので、ほとんど稼いでいませんでした。「稼ぐこと」はけっして当たり前ではない、ということからまず話をしたいです。

年収300万円稼ぐということ

心身ともに健康で、正社員・フルタイムで9時~18時、またはそれ以降もある程度は残業ができる、という方ならそれほど難しくありません。世の中の働く仕組みがそれを前提に動いているからです。
逆にいえば、それができなくなったときに、急に年収300万円を稼ぐことが難しくなります。

妊娠・出産・育児のタイミング

通勤に1時間以上かかる場合、こどもを保育園に預ける場合であっても、通常は19時までにはお迎えに行く必要があります。余裕を見て時短する、延長保育料を払いたくない、という場合は時短という選択肢も当然ありますが、なかには時短勤務では認めてもらえない、時短勤務をすることで評価が下がる、という会社もあります。世知辛いですね。

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病気やケガをしたとき

通院に週1通わなければならない、あるいは一日8時間働くことが体力的にも精神的にも難しいこともあります。短期的に治るものであればともかく、一生涯付き合わなければならない障害となったとき、ずっと時短でときどき休むけど給料は今までと変わらずヨロシク!という条件を会社はなかなか飲んでくれません。ほかにも毎日8時間以上働いている社員もいっぱいいます。恣意的な特別対応は不公平感が生まれますし、会社としては当然の判断なのかもしれません。でも、その人にとっては致命的なダメージです。

 

これらのケースはいくら本人が仕事をしたい!と意欲を出していても、その通りに仕事ができない、ということで本人にとってもストレスです。冒頭に紹介したニャートさんも今まさにこの状態にいるのだと思います。こうした状況に陥ると自己肯定感も低くなりますし、仕事がない、できないということ自体がコンプレックスとなってしまいます。
子どもがいても働きたい、障害があっても働きたい、介護しながら働きたい、そうは思っていても、働けない人の声を私は採用担当としていっぱい聞いてきました。そういった方を、なんとか「正社員」で採用したい、と常々思っています。そうした人が、正社員として働ける世の中がいいと思っています。

それには、社会の側・個人の側、それぞれで変わっていくべき意識があります。

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なぜ「正社員」なのか

よほどスキルのあるエンジニアやデザイナーなどは除いて、非正規雇用では稼ぎづらいのが現実です。非正規雇用の場合、通常は時給計算で給与が決まります。

働いた時間分だけ給与がもらえる。単純ですが、働けない時間が多ければ、当然その分給与は下がります。

正社員であれば、月給制のところが通常です。そのためGWの大型連休があっても、年末年始を休んでも、1ヶ月分の給与がもらえます。安定して固定的な金額の給与が入ってくる、というのは生活を安定させるうえではとても重要な要素です。台風で工場が動かなかったらその月の収入が減る、では困るのです。だから、私は時短であっても、週4勤務であっても、正社員での採用・応募を推奨しています。

また、最近流行りのフリーランスも私はやや否定的な立場です。フレックス勤務なども実はやや否定的なのですが、前提として「自己管理」「自己責任」があるからです。仕事を自分で組み立てる、自分を律して責任をもってやり遂げる、積み上げた信頼を大切にする、そういったことができる優秀で能力のあるフリーランスの人はごく一部です。管理されないから楽、という気持ちでフリーランスを目指すことは、マジメにフリーランスをしている人にとっては迷惑な話です。

健康で、家庭の心配のないフルタイム男性前提の働き方

多くの会社は、健康で、家庭の心配のない100%仕事に振りきれるフルタイム男性(あるいは男性社会のなかで勝ち抜いてきた女性)を前提にして明示的・暗黙のルールを整えています。ようやく潮目が少しずつ変わっているのかな、と思うところはありますが、まだまだ日本の労働市場ではそれが一般的です。

100%コミットの働き方ができる人が他にもいっぱいいた時代は、それでも会社は廻ってきたのだと思いますが、そろそろそれでは廻らなくなってきたという会社が増えているように思います。慢性的に人手不足なのは、柔軟な働き方に会社が対応しきれていないからです。

会社の採用力という意味では、柔軟な働き方のメニューが豊富な方が圧倒的に有利です。

www.manpowergroup.jp

ニャートさんもそうですが、優秀で頭の回転の速くて考察力も鋭いのに、障害(あるいは障害未満の特性)によって働けないという行き場を失っている人材はたくさんいます。いま求められているのは、そのマッチングシステムです。採用人事サイドにも、そういうマーケット視点で採用媒体を探し、周りを納得させるスキルが求められています。

www.manpowergroup.jp

障害は社会の側にある

これも、福祉界隈では当たり前に言われていることですが、障害は本人が抱えているものではなく、社会がその人に対応していないことから起きるものです。
フルタイムで働けなくても生きていける社会なら、働けないことは障害にはなりません。それで困っているから障害なのです。
決して、社会全体に責任を押し付けたいわけではありません。

いつまでも経ってもフルタイム前提の働き方しか受け入れられないという社会は衰退していきますよ、という警鐘を鳴らしたいのです。フルコミットできる社員の存在にいつまでも甘えるな、という話です。フルタイムじゃない正社員、週3で働く正社員、時短の正社員、いろいろな働き方の正社員がいてもいいと思います。

柔軟な働き方ができる、いつでもどこでも働ける、そうした環境は整えようと思えば、簡単に整えられます。そういうノウハウや情報・知見はとにかくどんどんシェアしていきましょう。私も定期的にそういった情報を発信しつつ、みんなが働き方に縛られない自由な社会に貢献したいと思っています。これらが、社会の側で変えていく意識になります。

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年収300万円は必要か

一方、個人レベルで見ても、なんとか生き抜くスキルはやはり求められると感じています。自己責任論にするな、と言っていても、社会が変わるまでに生き抜けなかったら意味がないからです。
もちろん、お金があるに越したことはないのですが、生活コストはたしかに体感的にも下がっていると感じています。ただし余裕のない生活は、人のやさしさを奪います。
前提としてあるのは、やはり少額でも固定的に安定した収入を得られることです。そのうえで、積み増しで副業なり複業なりをしていくのは、視野を広げる、スキルを増やす、稼ぎ口を増やす、などメリットは大きいと思います。働きすぎないように自己管理するのも、もちろん大事なので、無理はしちゃだめですが。
仮に、私が年収300万円以下、独身で過ごすとしたら、家賃はシェアハウスあるいは格安物件で3万円以下に抑え、風呂は近くのジムなどを利用し、固定費のコストを抑えます。そのうえで、消耗品費や食費を最低限に抑えるスキルを身につけ、少しずつでも自分のリソースを切り分ける、あるいはシェアをするなどして、稼げる分野を増やします。このあたりは、「しょぼい起業で生きていく」でえらい店長さんという方が述べていることを参考にしてください。なんとか生き延びていく戦略はネット上にも本にもたくさん転がっています。
現状の日本では、まだ社会福祉制度は機能していて、助けを求めればある程度助けてくれるところもあります。助けを求めるのも、助けてくれる人を見つけるのも、立派なスキルの一つです。しんどいときは、なんとか助け合って生きていくしかありませんし、意外と世の中優しい人もいっぱいいます。

「稼げない」を肯定する

働けない人、稼げない人がそれでも生きていく術はあるのか?という問いに対して、頑張れとか、稼げとか言うつもりはありません。働けないなら、稼げないならそれでもなんとか生きるしかない、というのがわたしの答えです。

皆が稼ぐ必要もないし、稼いでいないときの経験もまた、何かの役に立つかもしれません。少なくとも、ニャートさんは稼いでいなくても、少なからずファンがちゃんといて、私も多くの影響を受けています。めっちゃ稼いでいるどこかの社長の訃報にはちっとも悲しめなくても、ニャートさんがいなくなったら悲しいです。だから頑張って生きてほしいし、力を抜いて、もっとふらふらしてていいと思っています。

 

「寄り道、脇道、回り道。しかしそれらもすべて道」というのはスマイルプリキュアに登場するキュアビューティのあまりにも有名な言葉ですが、人生まっすぐ進む必要もないし、寄り道や脇道が許されるほうが、ずっと気楽に生きていけるし、ときには役立つこともあるんじゃないでしょうか。

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